| 少年の名はマツバといった。彼はホウオウと心を通わせることのできる一族の末裔であった。しかしその当然あるべき身分にも関わらず、彼はエンジュジムでは疎まれる存在であった。 理由の一つに彼がゴーストポケモンに馴染む性質でなかったということが挙げられるだろう。代々エンジュジムではゴーストポケモンが使われてきたが、彼はそれを拒んだ。ゴーストポケモンの悪戯好きな性分を、彼の内気で繊細な生まれ付きはどうにも受け容れ難かった。 同年代のこどもと交遊もなかった彼は、代わりにとあるエスパーポケモンを唯一の友人としていた。ふとしたことで出会ったケーシィであった。口を開くのすら億劫に感じる彼にとって、こちらの考えを随意に読みとってくれることは随分と有難かった。 ケーシィの体が彼の髪と同色だったことも、二人が通じ合った要因の一つとして数えられるかも知れない。彼はエンジュジムの誰とも違う髪の色をしていた。いっそ神々しい程の薄い金色であった。母親の姦通が噂されたことさえあった。だがその母親の顔もマツバは知らない。ただ、つまらない産み分けをしたものだ、と、時折そう思うことがあるくらいだった。 --- 彼はエンジュジムより外には足を踏み入れた経験を持たなかったし、そんなものには興味を抱くこともなかったが、繰り返し押し付けられる‘伝説’と霊にはほとほとうんざりしていた。彼は泣いていた。泣きながら、生まれて初めて、逃げるということを考えついたのだった。この思い付きは、彼の心に一筋の光を与えた。外界を知らない彼にとってそれは生身の儘海へダイブすることに等しく、掴めない不安の付きまとうことであった。けして生易しいことではない。とは言うものの、他に術もない。 「ケーシィ、……テレポートだ」 |