行き着いたのは見知らぬ街だった。エンジュシティには間違いなかったが、勿論マツバはそれを知らないし、知ったところでどうなるものでもなかった。彼にはこの一匹のパートナー以外、頼れるものは何一つない。
 さあ、どうしようか。
 彼は思った。足下の覚束無い様な感覚、それは其の儘恐怖でもなかった。
 目の前に人集りがあった。市街地の喧噪に頭を悩ませていた彼は、出来ることならそれに近付きたくはなかった。その人集りの中心にいたのがかの少年でなければ。

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「それでは、この中には何もありませんね?」
 彼はそう言って手に持ったシルクハットの中を観客に示した。マツバの目は、彼が特異な能力を持つ者でないことをつまびらかにした。だが、彼はいかにも得意気に、その何もないはずの黒帽子の中から、一輪の薔薇を取りだしてみせた。マツバは驚いた。彼は自分以上の力を持っているのだろうか。だとすれば此処から救ってくれる光は彼そのものだ。色々なものがマツバの脳内を駆けめぐり、突き上がり、急勾配で駆け下りていった。
無我夢中で彼のいる高台へ、テレポート、どよめき、まん丸く見開かれた彼の瞳、翻るマント、咄嗟に掴んだ金色の貨幣…

 

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