| 二人の居る部屋には小さな机と、花瓶にさされた一輪の椿があるだけだった。二人は無言で畳の上に腰を下ろした。目が合うと、二人の距離が徐に近付いた。ミナキの腕が伸ばされ、マツバは体を震わせた。触れそうで触れない指先。その動きを追うだけでマツバの躯は熱く火照りだす。いくら見まいと努めても、幾度も馴らされた躯はその快感を鮮やかに蘇らせる。自分の中で張りつめてゆく神経。糸を寄り合わせるようにして紡ぎゆかれるそれは、もう今にも切れてしまいそうなくらいに緊張していた。身体中が総毛立つ。 (あ、) 肌に体温を感じた瞬間、思わずマツバは身を屈める。躯が痙攣を起こしたように震えていた。ふとミナキの躯が前のめりにマツバに近付く。腕が其処に伸ばされるのを見て、マツバは空から落とされたような錯覚に陥る。 心配そうに見つめる相手の顔が目の前にある。先程の行為は、単に体重を支えるために手をついただけだと知って、マツバは羞恥に顔を赤らめた。依然躯の震えは止まらない。恥ずかしい。自分が何を期待していたのかと思うと顔から火が出そうだ。消えてしまいたいとさえ思う。今更肉体の充足を得ようなんて、しかも、同性相手にそれを欲するなんて。 (汚れた、のか) マツバの頬はその言葉で真っ赤に染まった。気付かれていたこと、その上に情けをかけられること、今にも泣き出してしまいそうな自分が厭で堪らなくなった。マツバは相手の手を払う。彼の所作はすべて自分への気遣いに基づいていることを知っているから、睨み付けることなどは出来ない。しかしこれ以上、どこまで自分は勝手に傷ついてしまうのだろう。何かがおかしい。 ミナキはマツバを胸に抱き寄せた。手品師に特有の華奢な手付きで、薄い色の髪を梳く。マツバの躯は徐々に落ち着きを取り戻していた。 (マツバ、) 返事の代わりに、顔を胸に擦り寄せた。ミナキは優しくそれを抱く。髪に口付けて、それから耳元で囁いた。 (私を、受け容れてはくれないか)
ミナキの腕に力が込められる。マツバの目が見開かれる。平生の彼に似合わぬ、焦った様子。それはつい今し方の申し入れを後悔しているようにも、また単に身体の余裕が無くなってきたようにも見えて、いよいよ、息苦しい、とマツバは思った。 |