| どうして自分が此処にいるのか、考えたことはなかった。否、考えることは無意味だった。必然だとか運命だとか言う言葉に置き換えるのは易しい。ただしそれが完全に正しいとは言い切れないことを自分は知っている。
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その女の人もまた、新たに四天王となった一人だった。ボクは彼女が少し苦手だった。ウェーブした薄い色の髪、明らかに異性を意識した身形。人を食って掛かった物言い。挙げ句の果てに、人の部屋に勝手に入ってきて、この悪態。 「何よ、女の一人も抱けないって言うの?」
ベッドの上に腰を下ろして彼女は持っていた煙草に火をつけた。鼻が焦げ付きそうなくらいの甘い匂い。ボクは彼女に背を向ける。 「今はそんな気分じゃないし、ボクはタバコの煙が嫌いなんだ。出ていってくれ。」
衣擦れの音がする。
「ねえ、こっち、向きなさいよ。」 乾いた布の音がする。余計な想像が精神を乱す。ボクは必死に頭の中の映像を振り払う。
「つれないのね。」
服の脱ぎ捨てられる音。煙草の煙。彼女の艶めいた声。
「あたくしがこんなに、」
冷や汗が流れる。ボクはそれを袖で拭こうとするけれど、仮面が邪魔をして、上手く拭えなかった。
「だからっ…!」 ボクは咄嗟に振り向いた。
「脱いでると、思った?」
ボクを嘲った。
「どうしたの、黙り込んじゃって。」
もしかしてゲイなの、それとも不能者なの、それならあたくしも諦めるけど。
「いや、…ただ、気が、変わったよ。」
ボクは仮面を外した。この人の前で、ボクは只の人間でしかない。女性には飽き飽きしたボクにとって、彼女は余りにも女らしかったけれど、それとは別に、ボクは生まれて初めて女性に出会えたような気がしたのだ。彼女はボクの素顔を見ると、案外いい男じゃない、と例の頬笑みをこちらに向けた。ボクは彼女の腰を抱き寄せ、静かに唇を重ねた。煙草の苦さに引きずり込まれそうだ。 ボクが此処にいる意味が、漸く解った。こじつけかも知れない、だけど辻褄合わせだって構わない。必死に追い求めたものは、きっと、この一瞬だけ。 |