彼の身体からは空の匂いがした。それは例えば冬の乾いた静かな空気であるとか、夏の湿った賑やかな、そう、抜けるような青空の大気であるとか、そういったものすべてを感じさせた。彼は随分と小柄で、抱き締めれば崩れてしまいそうに細かった。けれど、ぼくには、その身体は誰よりも高く空を舞うため彼に与えられた祝福であるように思えた。よって彼が袴を普段着としているのもきっとそういう理由に違いない。彼は鳥なのだ。袴を纏ったその姿、明るい場所で遠目に見ればこのぼくでさえ空を住処とする者と見まごうほどだろう。
 ただ今は暗闇なのだ。彼は少なくとも梟ではなかった。夜の帷が彼を一層敏感にしていることをぼくは知っている。彼の爪が畳を掻く音、僅かに洩れ出す声。
 彼は空と一体で、ぼくは闇そのものだった。