私はおまえの意識を支配したいわけではないのだ、と彼は言った。私はおまえが困っているときには助けに来る、そして私も随分とそちらの世話になった、私たちの付き合いというのはそうしたものだったろう。彼はあくまでも優しく諭すようにそう言った、ぼくはそれを歯痒い思いで聞いていた。そんなことはとっくにわかっていることだ、と。ぼくたちの間には友情を見いだすことが出来た。しかし友情はどこまでが友情で、そしてどこからが友情でないと言えるのか、人間関係に疎いぼくには解らなかった。そして彼に触れられただけで高鳴るこの鼓動をぼくにはどうすることもできなかった。

 彼はぼくを抱くときにいつも済まなさそうな顔をする。ぼくはそれが辛くて、いつもこう言う、ぼくはちょっとしたからだの不調で、たまたま、きみの体温が必要になっているだけなんだ、と。ぼくはほとんど人に触れられた経験を持たない。触れられることが寧ろ不愉快ですらあった。だがきみだけは違う、ぼくはきみに触れられるとき、いつも言いようのない恍惚を感じる、からだを融かされてしまいそうな(陳腐な言い方をすれば、雪が春の陽気に暖められていくような)この上ない多幸感に浸される。ぼくはそれを無くしては居られない。

 もう止そう、辛いんだろう、と乱れたぼくを気遣う彼。きみは何もわかっちゃいない。ぼくはきみとこんなことをして、それできみを繋ぎ止めておこうなんて考えては居ないのだ。これはひとえにぼくのからだが望むことで、ぼくの精神はこれとは別個のものだ。ぼくの心は君を愛しているが、だからぼくはきみにからだをさし渡すのではない。別だ。こころとからだは、別物だ。愛の最終形態は性交渉ではない。そんなものは欺瞞だ。後ろめたさを隠そうとして、必死に正当化を重ねて作り上げられた迷信だ。ぼくはきみを必要としている。しかし重ねるからだはそれとは無関係だ。ぼくにきみを拘束するつもりは毛頭ない。きみの心の内から沸き出る感情が、結果として君をぼくの傍に置いてくれればいいと願っている。けれど、

「どうしても斯うせずにはいられなかった」

 

*

 

 世界が一回転して、今まで見上げていた天井を背にぼくは彼を組み敷いた。そうして再度言う、ぼくは偶然にもきみの慰めを必要としてしまうことになったのだ、と。それは矛盾だと言おうとしたのであろうその唇を塞いで初めて、ぼくは疚しさという負荷を心に感じた。‥ぼくはいったいどうすれば良い?