その日エンジュシティは土砂降りの雨で、街が滲んだように濡れていた。ミナキはエンジュジムに駆け込むなりマントと上着を脱いで、それから、マツバ、と呼び掛けた。
奥の練習場からマツバがひょっこり現れる。そして再会を懐かしむようににこりと微笑んでみせた。「やあ、久しぶり。酷い目にあったね。」
「全くだ!こんな急に降り出してはかなわん!」
「ここ数日、雨が降ってなかったんだよ。でもこれはいい兆候だよね。‘伝説’のときもこんな降りだったようだし。」
「ああ、…そういうとらえ方も、有る。」
「あれ?きみのことだから、きっとそういう考えだと思ったんだけれど。」
「あー…いや、
…マツバ。話を引き延ばすのは止せ。」
「わかってたの?」
「わからいでか!」
マツバはふふ、と身体を揺らして笑った。
「ごめんごめん。じゃあ、お風呂入ってきなよ。湧いてるから。」
「‥感謝する。」
そういうとミナキは浴場へ向かう。マツバは玄関にミナキが置いていったマントと上着を手に携えて、知らず知らず饒舌になっていた自分を少し恥じた。
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ミナキが風呂から上がった後も、変わらぬ調子で雨は降り続いていた。
「…いい湯だった。」
「そう。ぼくも入れば良かったかな。」
「…。風邪を引いたらどうしてくれる。」
「風邪、ひきたくない?」
当然だ、の答えにマツバは苦笑する。そもそも、どうして二人で入浴したら彼が風邪をひくことになるのか、その理由を敢えて問うてやりたい気もしたがぐっとこらえた。
「風邪をひいたら、ぼくにうつしてくれればいいよ。」
「そのおまえの看病をしてやらねばならないなら、結果は同じだ。」
「ずっとここで伏せってるよりはいいでしょ?」
「ジムリーダーに風邪をひかせるわけにはいかないだろう。」
「そういうことか。」
「そういうことだ。」
じゃあ、とマツバ。「ぼくがジムリーダーじゃなかったら?」
自分ながら意地の悪い質問をするな、とマツバは思った。こんな尋ね方をすれば、彼はどうしてもこう言わざるを得ないことをわかっていながら。
「それでも、私はマツバが大事だからな。」
ミナキはマツバを引き寄せた。そうして、寂しい思いをさせた、と小さな声で囁いて、マツバがそれを予想外のことだと思って、心を乱している隙に、そっと頬に口付けた。
雨音が一瞬聞こえなくなった。その日エンジュシティは土砂降りの雨で、街が滲んだように濡れていた。
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