| 目覚めると、ぼくは自分が泪を流していることに気がついた。その雫を指で掬って舐める。味はしなかった。泪は感情によって味が違うのだ、と彼が言ったことを思い出す。それなら今の泪の意味は何だったのだろう。
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いつだったか、ぼくは、彼をとても困らせてしまったことがあった。それはぼくが彼を心待ちにし始めた頃だったと思う。その時のぼくはまだ他人というものがよくわかっていなくて、それでもご多分に漏れず、常人並みに‘人恋しい’という感情を抱いていたのだった。恐らくそういう時期は誰にでも訪れるのだろう。けれど、そのようなことは、少なくともぼくには許されていなかった。 そんなときに彼が現れたのだから、堪らない。ぼくは今でもそのことを思うと、居たたまれなさに消えてしまいたくなる。後悔からではなく、単に至らなかった自分が恥ずかしいと思うのだ。
『きみはどうして此処に居てくれないの』
その一言は長くぼくの心に爪を立てた。彼は明らかに困っていた。それがぼくを気遣ってくれていることが解るからこそ、ぼくはその時のことを今でも鮮明に思い出せるのだ。 言ってくれればよかったんだ、スイクンのためだと。私が旅を続けるのはひとえにスイクンのためであって、ここに留まってばかりいるわけにはいかないのだと。ぼくは突き放され独りにされるべき存在だったんだ。しかし彼は暫く考えた後こう言った、
『此処に、帰ってきたいと思うからだ』
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ぼくの目尻から、殆ど水に近いそれが後から後から溢れ出た。止まらない。止めようともしなかった。泣けるときに泣いておかねば後で泣けなくなるぞと、そんな詭弁を言ってくれたのは誰だったっけ?ぼくは泪の枯渇をこそ望んでいたのに。そうして、二度と目覚めなければよかったのに。 漸くと起き出した彼は、こちらが泣いていることに気がつくと、緩慢な動きでぼくの頬に顔を近づけ泪の筋を舌でなぞった。骨張ったからだが軋む音が聞こえそうなほど、ぼくをきつく抱いて、ああ、ぼくはまたきみを困らせてしまった。ぼくはそんなつもりじゃなかったのに。ぼくは只きみが好きなだけなのに。ぼくは何も辛くない。きみを蝕むぼくの泪には何の意味もない。ぼくの愛情がきみを傷つけるようなら、ぼくはこの気持ちを消し去ってしまおう。 |